ブルックナーの9番、アイヒホルンの演奏姿勢が作品に説得力をもたらす終楽章補筆完成版

クルト・アイヒホルン指揮、リンツブルックナー管弦楽団による演奏で、ブルックナー交響曲第9番(ノヴァーク版)、+終楽章付きで、これはサマーレ/フィリップス/マッツーカ校訂、コールス協力による補筆完成版。

とかく物議を醸しがちな”補筆完成版”(これはマーラー10番などもそう)、そしてこういう専門的学究系の話は素人の私には正直さっぱりわからないんですけれども、ここで取り上げられている「終楽章」は、アイヒホルンの実直、献身、奉仕の演奏姿勢によって、油断するとこの手の版に付け入って来がちな”イロモノ感”に扉すら開かせない。この「終楽章」を単体の音楽作品として受け止めても、それに説得力を持たせる演奏だと思います。

第1~3楽章の演奏も、外連味のない、真面目で堂々とした演奏で素晴らしく、同コンビによる交響曲第8番を聴いた時にも抱いた”武骨と優しさのハイブリッド”という印象がやはり当てはまります。今や無数の演奏スタイルによるブルックナーが聴ける時代ですが、あちこちで色々聴いてもたまには必ずここに戻って来たい、そんな故郷っぽさがあります。やはりブルックナーって田舎の風変わりな交響曲作家だったと思います…ゴージャスでスタイリッシュな演奏はそれはそれで面白いけど、ブルックナーって本来はそういう感じじゃないんだろうと思うんですよね。

プロデューサー井阪氏によるライナーノートは見物(みもの)。

 

 

武骨と優しさのハイブリッド、アイヒホルン/ブルックナー管によるブル8

ブルックナー交響曲第8番(1890年、ノヴァーク版)を、クルト・アイヒホルン指揮、リンツブルックナー管弦楽団による演奏で。

1991年、オーストリアリンツブルックナー・ハウスでのセッション録音。

総演奏時間は77分ちょっと、同曲としては比較的速い部類の演奏になるのかな、意外にも(なんとなく、意外にも)、残響少なめの録音で、それによって細かなパッセージが際立ち、マエストロ・アイヒホルンの”言わんとすること”が伝わる、わかる…そんな気がしてくる。武骨と優しさのハイブリッド。これは決して都会の、摩天楼にいるブルックナーではなく、田舎のブルックナーですね。だがそれがいい。このコンビによるブルックナーの録音を日本のレーベル(カメラータ・トウキョウ)が遺したということに誇りを感じてしまいます。

エストロのエピソードが濃厚に含まれたプロデューサー井阪氏によるノートも貴重だと思います。

 

マーラーの交響曲第1番、スロヴァキア括りで3種盛り!

所有CDの整理を随時行なっているのですが、マーラー1番の同曲異演盤が3種、手元に揃ったので聴き比べをしてみました。初詣以外どこへも出かけぬ正月三が日、時間はある!(時間しかない!)

 

ズデニェク・コシュラー指揮 スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

NAXOS、1988年録音)

NAXOSのレーベル初期における録音は音質的にクオリティが低いものが少なくなく、特にスロヴァキア・フィルとの録音はその軽薄さが群を抜いている、と個人的に思います。こうした録音から聴き取れるオケの技量については、決して高いものではない(”写真写りの悪い人”的な感じで、録音のせいで実際よりも悪く聴こえている節があるのでは?という懸念があります)のですが、それでもこの悪条件の中で健闘が聴かれるケースもあり、中には秀演、名演の類もチラリとあったりします。ガンゼンハウザー指揮によるドヴォルジャーク交響曲全集はライトな音質と作品の素性(そせい)を全く変にいじらないことで味のある”鄙び感”を体現させた秀演だと思うし、今回のマーラー1番はコシュラーならではのオーケストラドライヴの手堅さ、そして外連とは対極の堅実な語り口の巧さによって名演の域に達そうとしています。大きめの音量で聴くとハッタリが多少利いて聴こえるのと、聴き馴染んでくると音質的な不足要素を脳内補足出来るようになってきたりもするので*1、ぞんざいにせず、長い目で傾聴を試みてみることが初期NAXOSのスロヴァキア・フィル録音に対しては必要かと思います。

 

千尋指揮 ポーランド国立放送交響楽団(カトヴィッツェ)

(SLOVART、1989年録音)

「はやし・ちひろ」さんという日本人指揮者による録音なのですが、知名度が(申し訳ありませんが)無い、というのが不思議でならないほど立派な演奏です。立派といっても大仰でゴージャスで…とかそういうベクトルではなく、それこそ前出のコシュラーのような手堅さ、渋さで構築された職人技、によるものです。オケは個人的に”スーパーオケ”と目しているポーランドはカトヴィッツェの国立放送響、技量に問題はありません。録音も実に上質なものです。(コシュラー盤と録音年が1年しか違わず、しかもこのSLOVARTというレーベルはスロヴァキアの会社なのです。初期NAXOS、スロヴァキアではラジカセか何かで録っていたのでしょうか?^_^;)

 

オンドレイ・レナルト指揮 新星日本交響楽団

(JOD、1990年録音)

新星日響のヨーロッパ・ツアーにおける、東ドイツ(当時)はライプツィヒ、新ゲヴァントハウスでの公演ライヴ録音。スロヴァキアの名匠・レナルトは新星日響の首席指揮者を務め、相性も良かったのだろうと思います。このコンビによるマーラー交響曲は、ライヴ録音として今回の1番の他にも数枚CDが出ており、自分は3番、5番、9番も所有していますが、どれも素晴らしい演奏記録となっています。個人的に、新星日響と言うとルーティンやダルとは縁遠い、いつも”頑張り”が伝わってくる演奏をするオケ、という印象がありましたが、いずれのマーラー録音もオケの熱奏をスケール感と感興とでダイナミックにドライヴする名演をレナルトが導いています。

 

今回の3枚、オケが、レーベルが、指揮者がと、”スロヴァキア括り”ということになっておりました。では、ドヴィジェニア!*2

 

 

*1:注:この傾向には個人差があります

*2:さようなら!(スロヴァキア語)