ブルックナーの9番、アイヒホルンの演奏姿勢が作品に説得力をもたらす終楽章補筆完成版

クルト・アイヒホルン指揮、リンツブルックナー管弦楽団による演奏で、ブルックナー交響曲第9番(ノヴァーク版)、+終楽章付きで、これはサマーレ/フィリップス/マッツーカ校訂、コールス協力による補筆完成版。

とかく物議を醸しがちな”補筆完成版”(これはマーラー10番などもそう)、そしてこういう専門的学究系の話は素人の私には正直さっぱりわからないんですけれども、ここで取り上げられている「終楽章」は、アイヒホルンの実直、献身、奉仕の演奏姿勢によって、油断するとこの手の版に付け入って来がちな”イロモノ感”に扉すら開かせない。この「終楽章」を単体の音楽作品として受け止めても、それに説得力を持たせる演奏だと思います。

第1~3楽章の演奏も、外連味のない、真面目で堂々とした演奏で素晴らしく、同コンビによる交響曲第8番を聴いた時にも抱いた”武骨と優しさのハイブリッド”という印象がやはり当てはまります。今や無数の演奏スタイルによるブルックナーが聴ける時代ですが、あちこちで色々聴いてもたまには必ずここに戻って来たい、そんな故郷っぽさがあります。やはりブルックナーって田舎の風変わりな交響曲作家だったと思います…ゴージャスでスタイリッシュな演奏はそれはそれで面白いけど、ブルックナーって本来はそういう感じじゃないんだろうと思うんですよね。

プロデューサー井阪氏によるライナーノートは見物(みもの)。